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国際武道大学

大学院武道・スポーツ研究科 教授

大保木 輝雄

戦後武道の復活から現在まで

 昨年の本学会第57回大会は九州産業大学大楠アリーナ多目的室で開催されました。一昨年から対面での開催となりましたが、昨年は懇親会の復活によって、相互の交流も一層深められ、改めて「対面」の意義を再認識することにもなりました。
コロナ禍による対面不可の時期にITの技術や手法の導入によって大会が実施されましたが、そこでの経験知を踏まえての実施となりました。大会開催に向けて様々な配慮がなされましたが、とりわけ実施をお引受けいただきました九州産業大学及び九州支部の皆様に改めて御礼申し上げます。また、日本武道館の皆様には、様々な援助に加え月刊武道誌上に昨年から設けていただいた『私の学術研究』の充実を図っていただきました。厚いご配慮に衷心より感謝申し上げます。

 5年前の2020年には「2020年東京オリンピック」(第32回オリンピック競技大会)が開催予定でしたが、コロナ禍で一年遅れの2021年に開催されたことは記憶に新しいことです。かつて東京でのオリンピックは嘉納治五郎の努力によって1940年(昭和15)に開催されることに決まりましたが、第二次世界大戦によって中止となりました。
戦後武道の復活を期して1964年(昭和39)に東京オリンピック(第18回オリンピック競技大会)が開催されました。その時、嘉納治五郎が開設した講道館で柔道を学んだ人々によって推進され建設されたのが「日本武道館」でした。 柔道は正式種目となり、その開催場所ともなりました。それは、世界の人々に「日本といえば武道」と印象付けました。

日本武道学会の創設

 国内的には、戦後まもなくGHQによって武道に大きな制限が加えられたこともあり、武道教育の刷新を図ることになりました。それを受けて、武道館設立運営の目的を達成させるための公益財団法人日本武道館の定款7項目の事業の一つに「武道に関する学術調査研究に関する事業」とあり、1968年(昭和43)に本学会の設立をみたのです。

 本学会の創設が1968年(昭和43)。8年後の1976年に日本学術会議に、翌1977年には国際スポーツ科学・体育学会加盟が承認されて概ね半世紀、そして今日、武道を対象とした学術研究の成果が各界に向けて発信されるようになりました。
今後も武道の特性について多くの知見が蓄積され、2年後の60回記念大会では「これが武道だ」と示すことができることでしょう。
武道発展の経緯を辿れば、その出発点は「対面」です。その対面は単に向き合うだけでなく、お互いに否定し合う関係性が原点となっています。
対面性の闇ともいうべき相互否定の場から相互肯定の在り方を示したのが「武道」。実技・実践での「間合」「気合」「理合」をどう読み解くかが課題となるのではないでしょうか。

「武道とは何か」を説明できる学術団体として発足した日本武道学会は様々な紆余曲折を経て今年で58年目を迎えることになります。

「武道の伝統と文化」の発信について

2006年(平成18)に改正された新教育基本法の「前文」には「個人の尊厳を重んじ、真理と正義を希求し、公共の精神を尊び、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期するとともに、伝統を継承し、新しい文化の創造を目指す教育を推進する」と謳われています。 本学会はその内容を受けとめ、「武道の伝統と文化」について「何をどのように」発信しなければならないのか、をまとめ上げなければなりません。 関係者諸氏のご協力をお願い申し上げます。どうかよろしくお願いいたします。